第7話:傷痕

ソロ「陸が見えたぞー!王国だー!」
メティエ「……とうとう着いたか。」
リベルディ「大きな問題もなくて何より。ま、それはそれで物足りないものだけどな。」
メティエ「そういうのは帰りに期待してろ。」
メティエ「それで、どうするんだ?さっさと決めねえと、ずっとうちで掃除係だぜ。」
エルピス「待って、降りる。だけどせめて、このモップだけは持って行かせて。共に航海をしてきた相棒なの。」
ブリッツ「いや、かさばるだろ。というか、持って行かれたらこっちも困るから。」
リベルディ「ははは、そんなに気に入ったのなら持っていくといい。」
メティエ「オイ、ンなこと言ってマジで持って行きやがったらどうすんだ。」
メティエ「大体、あいつは言われたことを延々とやり続けるタコスケだぞ。掃除が好きだとか嫌いだとか関係なくな。」
メティエ「それはあんたの言う、本物、に値すんのかよ。」
リベルディ「ふふふ、さてな。」
エルピス「お待たせ。」
リベルディ「おや、モップは置いていくことにしたのかい?」
エルピス「雑巾で手を打った。」
ブリッツ「まぁ、雑巾は使い捨てですし……。」
リベルディ「はっはっは、海賊船から物をかっぱらっていくとは!エルピスには海賊の才能があるよ。」
エルピス「どやぁ……。」
メティエ「誰にそのムカつく反応を仕込まれた。」
リベルディ「その度胸に免じてオマケだ。オイ、エルピスにボートをくれてやれ。」
「アイアイサー!」
エルピス「いいの?」
リベルディ「礼はいらないぜ。ただの気分さ。」
エルピス「……うん、わかった。」
リベルディ「さて、急いだほうがいいぜ。降りられるチャンスはほんの一瞬だ。逃せば次はない。」
エルピス「それは困る。」
リベルディ「ははは、だったら行くんだね。」
エルピス「あいあい、さぁ。」
ヨー「あ、エルピス!これこれ、忘れてるぞ!」
エルピス「……なんだっけ、この双剣。」
ヨー「お前の武器だよ!忘れるなよ!」
エルピス「あぁ~……・」
メティエ「人形遊びには満足したか?」
リベルディ「ん?」
メティエ「ガキってのは、どんな形であれ、癇癪を起したり、わがままを言うもんだ。」
メティエ「だが、あいつにはそれがない。」
リベルディ「だから人形ってわけか。あの子の行方が気になるか、メティ?」
メティエ「ンなわけねえだろ。ただ……、単にお守りは大変だったってだけだ。」
リベルディ「そうか。」
リベルディ「だが、どうだろうな。今は知らない世のまやかしに翻弄されながらも、いずれ自分だけの本物を持つのか。」
リベルディ「それとも……、人形のままなのか。」
リベルディ「なんにせよ、いずれ会う日が楽しみだ。」

王国の老人「王都なら、あっちの方角じゃな。」
エルピス「あっち。」
王国の老人「ああ、だけど気をつけたほうがいい。最近、凶暴なモンスターが出没するらしくてのう。」
王国の老人「何人も襲われているという話じゃ。できるだけ、街道から離れないようにしたほうがいい。」
エルピス「うん、わかった。ご親切にありがとう。」
王国の老人「お安い御用じゃとも。では、良い旅を。」
エルピス「良い旅をー。」
エルピス「そうか、モンスター。今まで運が良かっただけで、当然いるはず。」
エルピス「出会ったらどうしよう。私は癒術が使えないし、戦うこともできない。ということは、成されるがまま……、」
エルピス「……。」
エルピス「その時に考えよう。」
エルピス「それより、急ごう。メルクを待たせるわけにはいかない。」

エルピス「……。」
エルピス「どこだろう、ここ……。」
エルピス「街道は完全に外れてしまった。これはちょっと、まずいかもしれない。」
エルピス「どうしたらいいかな。ねぇ、何か知恵を……、」
エルピス「あ、誰もいないんだった。」
エルピス「最近は人と会話する機会が多かったせいか、ひとりになると独り言が多くなってしまっている。気をつけないと。」
エルピス「しまった、今のも独り言だ。」
エルピス「というこれも、独り言。」
エルピス「あ、今のも。」
エルピス「これも。」
エルピス「やめ……っ。」
エルピス「……。」
エルピス「諦めよう。ひとりである限り、独り言からは逃れられない。それに、これはこれで賑やかになって悪くない。」
エルピス「……でも、どうしてだろう。メルクや、海賊のみんなと話しているときほど楽しいものではない。」
エルピス「やっぱり、会話という形態が重要なんだ。1人と2人じゃ、2人のほうが強いに決まっている。つまり、戦いは数ということ。」
エルピス「あ、これは意外にも心理を突いてしまったかもしれない。ねぇ、どう思う?」
エルピス「……。」
エルピス「そうだ、誰もいないんだ。」
エルピス「……寂しい。」
エルピス「人と交わることの楽しさを知ってしまったからだ。知らなければ、寂しいと思うことさえなかった。」
エルピス「寂しいのは……つらい。できることなら、知りたくなかった。」
エルピス「……。」
エルピス「誰かに会いたい。」
エルピス「言葉を交わせるなら……、ううん、聞いてくれるだけでも充分。」
エルピス「それだけでいいから。……誰でも、いいから。」
マリフォレ「……。」
エルピス「……。」
エルピス「ごめんなさい、条件が緩すぎた。誰かは誰かでも、危険のない誰かということで。」
エルピス「……あなたはどっち?」
マリフォレ「モッフウウウ!」
エルピス「すごい、敵意しか感じない。わかりやすい答えをありがとう。助かる。」
「それじゃあ、私は逃げるね。さよなら、またどこかで。」
「モッフウウウ!」
エルピス「すっごい追いかけてくる。」
エルピス「これは何となくわかる。追いつかれたら、ひどい目にあわされるタイプのやつだ。詳しくは知らないけど、直感で理解できた。」
エルピス「とにかく逃げなきゃ。私は、早くメルクに……。」
マリフォレ「モッフ!」
エルピス「……っ!なに、この煙……。モンスターから?」
「……っ!」
エルピス「おかしい、うまく立てない。頭がフラフラする。目元もボヤける。なんだか、気分も……、良くない……。」
エルピス「う……、この煙のせい……?」
マリフォレ「フォォォ……!」
エルピス「今、近寄っちゃダメ……。回避もできないし、反撃もできない。だから……。」
マリフォレ「モッフウウウ!」
エルピス「……っあ!」
エルピス「……痛い。」
エルピス「どう、しよう。すごく、痛い……。」
エルピス「これ、嫌い、だなぁ……!」
マリフォレ「モフゥゥゥ……!」
エルピス「また、来る……。何とかしなきゃ、また、あの痛いのが……!」
マリフォレ「モフゥウウウウウ!」
「ひぁ……っ!」
マリフォレ「モフッ!」
エルピス「はぁ、はぁ……。なんとか、避けられた……。」
エルピス「だけど……。」
マリフォレ「モフゥウウウウウ!」
エルピス「……っ!」
エルピス(ダメ、脚がすくんで……!)
マリフォレ「モフゥウウウウウ!」
エルピス「ひっ……!」
?(レクルス)「こっちです!」
「わっ……!」
マリフォレ「モフッ……?」
?(レクルス)「ふぅ、間一髪でしたね……。私の脚力もなかなか侮れないものです!」
エルピス「え……。え?」
?(レクルス)「ああ、ご安心を。私は決して怪しいものではありませんので!えっとですね、私は……、」
マリフォレ「モフゥウウウウウ!」
エルピス「来てる……っ!」
?(レクルス)「ヴァル!」
ヴァライフェ「はぁああ!」
「モフー!?」
エルピス「えっ……?」
ヴァライフェ「黙って飛び出していくのはやめてください、レクルス様!心臓がキュッとなりますので!」
レクルス「あ、あはは、ごめんなさい……。ついつい体が勝手に動いてしまって。」
ヴァライフェ「はぁ……、行動力のあるお人好しというのは何とも厄介な組み合わせですね。」
レクルス「あ、今の悪口ですかー?悪口と受け取りますよー。」
ヴァライフェ「半分愚痴で、半分褒め言葉ですよ。それより、早く彼女を連れて離れてください。ここは危なくなりますよ。」
ヴァライフェ「足止めとは言え、マリフォレ相手に手加減はできませんから!」
マリフォレ「モフゥウウウウウ!」
ヴァライフェ「はぁあ!」
エルピス「ひわっ!?」
レクルス「ここにいると巻き添えですね。お姉さん、移動したいのですが歩けそうでしょうか?」
エルピス「えっ、う、うん。ちょっと痺れてるけど、なんとか。」
レクルス「上々です!それではお手を。エスコートはお任せを。」
エルピス「わ。え?」
レクルス「それではヴァル、町で落ち合いましょう。……御武運を!」
ヴァライフェ「はっ!」
レクルス「さぁ、行きましょう。手を離してはいけませんからね!」
「うわっ。わ。わ!」
エルピス「ど、どうなってるの、この状況?それに、あなたはいったい……?」
レクルス「うーん、そうですね。色々と立場はあるのですが、今ぴったりなのは……、」
レクルス「通りすがりの癒術士、といったところでしょうか。」

第二部一章

タイトルとURLをコピーしました