第62話:『神の設計図』

マリエラ「失礼します。追跡チームの皆様をお連れいたしました。」
「ありがとう、ご苦労様です。」
ユウ「綺麗な部屋だ……。」
メルク「みゅみゅみゅ!本がいっぱいなのですよ~!」
「突然お呼び立てして申し訳ありません。どうしても、お話したかったものですから。」
メルク「みゅ!あ、あなたがアルキメシスさんなのです?」
「ええ。お初にお目にかかります。」
アルキメシス「私はアルキメシス。このバンクスシティで、物書きをしております。」
カプナート「背中に巨大な蒸気機関……。ドクタールジャンドルが言っていたのは、貴方のことだったのか。」
テオ(……?この人、なんだかほっとする感じがする……)
アルキメシス「ドクタールジャンドル……。ああ、彼のことはまだ記録に残っています。」
テオ「記録?」
アルキメシス「おっと失礼、記憶ですね。」
アルキメシス「彼の研究は、とても興味深かった。無理をして話をしただけの甲斐はありましたよ。」
メルク「無理をして……?蒸気機関といい、どこか体の具合が悪かったりするのです?」
アルキメシス「いいえ、ご心配なくお嬢さん。私の躰は、もう何年も調子を保っています。」
メルク「なら良かったのですよ!」
アルキメシス「さて、私個人の話はこれぐらいでよいでしょう。どうぞおかけになって。本題に入りましょう。」
カプナート(切り上げられたな)
ハードエッグ(ああ、個人のことには、これ以上、踏み込んでほしくないようだ)
アルキメシス「マリエラ、お客様にお飲み物を。」
マリエラ「かしこまりました。どうぞ、こちらのメニューからお選びください。」
ユウ「メ、メニューがあるんですね……。すげぇ……。」
テオ「ユウにぃ、頼んでいいのかな……?」
ユウ「えっと……、」
カプナート「……ありがたくいただこう。紅茶を。砂糖は5……いや、ひと掬いで。」
ユウ「いいみたいだ。」
テオ「よかった、ノドがからからだったの!あたしはリンゴのジュースください!」
ユウ「俺は紅茶を。あと、こいつに水をもらっていいですか?」
トト「きゅ、きゅ!」
マリエラ「承知しました。他の方は?」
タイロス「君の愛をちょうだいしたい。」
メルク「節操無しなのですよ……。」
テオ「サイテー……。」
マリエラ「申し訳ございません。メニューにあるものでお願いいたします。」
タイロス「色んな意味で、ガーン……!」
ハードエッグ「白ワインをひとつ。」
カプナート「おい、仕事中だぞ。」
ハードエッグ「俺が飲むんじゃない、ミスターだ。」
ミスター「ぴぴぴ!」
カプナート「ミスターが……。」
メルク「私は飲み物がいただけない体質なのです。遠慮しておくのですよ。」
エルピス「私はテオと同じやつを。先輩。はい、メニュー回ってきたよ。」
ヘキサルト「……。」
マリエラ「……あ。」
エルピス「先輩?」
ヘキサルト「あ、ご、ごめんごめん。またぼーっとしちゃってた!」
ヘキサルト「あそこの棚に置いてある置物が、気になっちゃってさ。いやー、いい置物だよあれは。うん!」
エルピス「さすが先輩、審美眼がある。」
カプナート「いいから、さっさと飲み物を頼め。」
ヘキサルト「あっ、ごめーん。じゃあ私はねー……ホットミルク!」
マリエラ「……。」
マリエラ「蜂蜜は、入れますか?」
ヘキサルト「わっはー、気が利きますね!ありがとうございます、ぜひ!」
マリエラ「……承知しました。」
ハードエッグ「さて……、それでは。」
アルキメシス「ええ、本題に。『神の設計図』について、お話しましょう。」
カプナート「待て、その前に確認がしたい。お前はなぜ公表されていない、追跡チームの存在を知っていたんだ。」
ハードエッグ「我々が『神の設計図』を追っていることを知っているのも謎だな。」
ハードエッグ「私個人の話はこれぐらいで……とさっき言っていたが、ここに関しては、きっちりと明かしてもらいたい。情報の信用度にも関わる。」
ユウ(……俺、普通に話しそうになった)
ヘキサルト(安心して、私もだから)
アルキメシス「ごもっともです。では、ひとつずつ紐解いていきましょう。」
アルキメシス「まず、貴方達のことを知ったのは、私が設計議会にパイプを持っているからです。」
カプナート「貴方が設計議会に……?そんな話、聞いたことがない。」
アルキメシス「おっと失礼、言葉が足りませんでした。私の持つパイプは設計議会の議員すべてと、つながっているわけではありません。」
アルキメシス「繋がりはあくまで極一部の者のみ。私はその人物から、メアリローサという議員が、特別なチームを立ち上げたと聞いたのです。」
カプナート「それは……、設計議会に、情報を漏らす者がいるということか?」
アルキメシス「何か問題がありますか?全て、国のためです。」
カプナート「なに……?」
アルキメシス「彼らは自分の利益のために、私に情報を流しているわけではありません。あくまで、この国のためにやっていることです。」
アルキメシス「彼は私に有益な情報を流し、私は彼らに、問題に対する手打ちを提言する。……我々はいわば、隣合った歯車です。」
アルキメシス「互いに互いを回しあう。そうすることで、国という巨大な機械を動かしてきた。」
アルキメシス「今までも、これからも。」
カプナート「……。」
アルキメシス「理解できませんか?」
カプナート「……いや。」
ヘキサルト「リーダー……。」
タイロス「……そういうこっちゃ、ねえんだよなあ。」
ユウ「タイロスさん?」
タイロス「坊主がイライラしてんのはよぉ、そういうこっちゃねぇんだ、物書きの旦那。」
タイロス「この人はオレより年下のくせに賢いからよ。多分、あんたが今話したことだって、理解してると思うんだわ。」
タイロス「でもよ、理解と納得はちがうもんだろ。」
アルキメシス「どういう意味でしょうか。」
タイロス「そう身を乗り出して聞くことじゃねぇって。オレは学のねぇ、感覚で生きる男だ。」
タイロス「まぁ、そんなオレにもだ。あんたの言ってることは正しいってわかるぜ。」
タイロス「人間なんて歯車に出来ることなんて、たかが知れている。隣の歯車を動かすのが精一杯の、貧弱な部品だ。」
タイロス「一人で国を動かせるなんて考えているなら、それは傲慢ってヤツだろうさ。」
ヘキサルト、カプナート「……。」
タイロス「だけどよ。憧れの人だけは、別で考えちまうんだよなぁ。」
タイロス「自分よりもっと優れた人であってほしい、というか、そうだと信じてる。欠点なんかねぇ、完璧な人間なんだと思い込んでる。」
タイロス「だから、その人の弱みを見るとよぉ。こう……ガッカリしちまうわけだ。自分のことなんか棚にあげちまって。」
タイロス「坊主が感じてるのは多分、そういう気持ちじゃあねぇのかな?」
カプナート「……。」
タイロス「完璧な人間なんてこの世にはいやしねぇ。そんな当然なことも知らねぇなんて、言っちゃあなんだが、馬鹿だと思うぜ。」
タイロス「でもよ……わかっちまうんだ。オレも、馬鹿だったからな。」
タイロス「そういうのを乗り越えて、飲み込んで、そんでもまだ尊敬するってのがさ……。大人になるってことだと、オレは思うわけさ。」
カプナート「タイロス……。」
タイロス「なぁ、物書きの旦那。あんたにも、覚えがあるだろ?」
アルキメシス「いえ、ありません。」
タイロス「そう、ない。ないんだなこれが。」
タイロス「えぇっ、ないの!?待ってよ、じゃあ話まとまらないじゃん!」
トロボック「うっす……。」
タイロス「やだ、憐みの目で見ないでよ!恥ずかしくなっちゃうぅぅぅ!」
テオ「さっきまですごくかっこよかったのに……。」
メルク「さ、最後以外は良かったのですよ、とても!」
アルキメシス「……覚えはありませんが。」
アルキメシス「興味深い意見でした。ミスタータイロス。記録しておきます。」
ハードエッグ「記録、ね。」
アルキメシス「……。」
ハードエッグ「話がそれてしまったな。話を戻してもいいか、ボス?」
カプナート「ああ……。取り乱して、すまなかった……。」
アルキメシス「こちらこそ。配慮に欠ける発言をしてしまったようで、申し訳ありません。以後気をつけましょう。」
アルキメシス「さて、なぜ貴方達が『神の設計図』を追っているかがわかったか……でしたね。この質問に対しての返答はノーになります。」
ユウ
「それは……どういう意味ですか?」
アルキメシス「言葉の通りです。私は貴方達が『神の設計図』を追っていることをこの場で聞くまで知りませんでした。」
ハードエッグ「ではなぜ、我々と『神の設計図』を結び付けることができた?」
アルキメシス「答えは最初の質問にあります。私はチーム立ち上げと同時に、そのメンバーについても詳しく聞くことができました。」
アルキメシス「そしてヘキサルトお嬢さん。貴女の能力についても知ったのです。」
ヘキサルト「わ、私の能力ですか?」
アルキメシス「卓越した機械に関する知識。そして、何より決定的だったのはその片翼。」
アルキメシス「それらは、この国を創造したと伝えられる神が持っていた権能と一致するのです。」
ヘキサルト「……!」
カプナート「ま、待ってくれ!」
アルキメシス「おっと、私はまた失言を?」
カプナート「いや、違う!話が前に進みすぎている。今の話だとまるで……!」
メルク「『神の設計図』が実在して、神様もいたように聞こえるのですよ……。」
カプナート「そうだ。僕達も便器上、そう呼んではいるが……、あれはおとぎ話の一つだろう。」
アルキメシス「なるほど、その段階でしたか。これは失礼しました。」
アルキメシス「結論から申し上げますと、私は『神の設計図』は実在し、この国は、その神によって作られたと確信しています。」
ヘキサルト、カプナート「……!」
ハードエッグ「根拠は。」
アルキメシス「……機械、科学、エレキ。この三国は一般的に、技術三国と呼ばれ、とくに技術力に優れた国とされますが……、」
アルキメシス「機械の国の技術はどう贔屓目に見ても、その中では劣っているのが現状です。」
タイロス「オイオイ、冗談きついぜ。他国に機関車があるなんて、聞いたことねぇぞ?」
アルキメシス「科学の国では、機関車と同程度の速度を馬程度のサイズの乗り物で、すでに実用化一歩手前までこぎつけています。」
タイロス「うそっ!」
アルキメシス「エレキの国にある滑り箱という乗り物は、機関車以上の低燃費、操縦に必要な人員も技術も、比較にならないほど少ないと聞きます。」
タイロス「ナンデッ!」
トロボック「うす、うーっす!」
アルキメシス「申し訳ありません。例としてちょうどよかったもので。」
アルキメシス「フォローになるかはわかりませんが、機関車には機関車にしかない利点があります。蒸気機関の発達した我が国らしい乗り物ともいえる。」
タイロス「ソウカイ、アリガトヨ。」
メルク(言われてみれば、前に見たエレキはすごい技術だったのですよ。人を何百年もそのまま眠らせるなんて……)
テオ「でもそれじゃあ、どうして機械の国も、その2つに並んでいるの?」
アルキメシス「良い質問です、お嬢さん。」
アルキメシス「それはこの国は確かに、その2国に並ぶだけの技術を持っていたから。それに他なりません。」
アルキメシス「これをご覧ください。機械の国では有名な童話の挿絵なのですが……、」
エルピス「……同じ顔をした人がたくさんいる。」
カプナート「自動人形か。」
エルピス「自動人形?」
カプナート「自分で考えて動く人形……と考えればいい。実物は『思考』と言える段階には至ってないが。」
ハードエッグ「決められた行動をする、それが精一杯だな。このような精巧な人型のものも……初めてみる。」
カプナート「それで、これがどうした。」
アルキメシス「ここに描かれている自動人形。それらは全て、人間並みの思考能力を持っていたと、童話には書かれています。」
カプナート「それは僕も知っている。だがミスターアルキメシス、自分で言っただろう。これは童話だと。『あればいいのに』の世界だ。」
カプナート「人形繰りの祖父がいたからわかる。自分の意志を持つ人形なんて、作れるわけが……、」
アルキメシス「ところが、これは実在したのです。それも国民一人に対して一体……それほどの数が。」
タイロス「待て待て、待てよ!根拠もなしに信じられねぇぞ!そんなこと!」
アルキメシス「こちらの写真をご覧いただければと。口外はご遠慮ねがいます。」
メルク、ユウ、タイロス「……。」
メルク「挿絵と、同じ光景なのですよ……。」
タイロス「オ、オレ、写真って初めて見たんだけどよ。偽物ってことはねぇのか?絵とか!」
ハードエッグ「いや、おそらく絵ではない。塗料が塗られている形跡がないからな。ボス、触感はどうだ?君なら写真も見たことがあるだろう。」
カプナート「……ああ、これは絵じゃないな。写真独特の手触りがする。」
タイロス「じゃ、じゃあ機械の国には、マジでこんなのものが実在するっていうのかよ!」
アルキメシス「はい。もっとも、今は動きませんし修理の方法も不明です。失われた技術と言ってよいでしょう。」
ヘキサルト「……。」
メルク「もしかしてそれが、『メンテナンス』以前の技術なのです?」
アルキメシス「ご存知でしたか。」
アルキメシス「他にも、蒸気ではない燃料を使ったエネルギー。記憶そのものを残す技術、というものまで存在したようです。」
テオ「存在したってことは、それも……?」
アルキメシス「ええ、現在では再現不可能。ロストテクノロジーと呼ばれる代物です。」
アルキメシス「これらの技術があった証明はあるのですが、その技術の詳細に関しては、『メンテナンス』を境に、全て消え去りました。」
アルキメシス「今と過去を分けてしまった100年。まるで誰かがこの国を、整備したかのような。」
アルキメシス「私は、その謎を……、」
ハードエッグ「アルキメシス?」
アルキメシス「おっと失礼。話がそれてしまいましたね。重要なのは『メンテナンス』ではなく、これらの技術を生み出した存在について。」
アルキメシス「これらの技術は、全て一人の存在によって、生み出された物である可能性が非常に高いのです。」
ユウ「これを、一人で……!?」
アルキメシス「これらの技術が発見された場所には、必ず、製作者と思わしき名前が残されていました。」
アルキメシス「『我らの神・ギア』」
ハードエッグ「ギア……。」
ヘキサルト「……それが、神様の名前。」
アルキメシス「これこそが、神が……、少なくとも、そう呼ばれるに匹敵する存在が、確かにいたと私が信じる、根拠です。」
ヘキサルト「……。」
メルク「パルトネールさんが、言っていたのです……。『神の設計図』は神が記したものだと。それを読み解けた者には、神の知識が与えられると。」
メルク「もしかして、そこに書かれているのは……?」
アルキメシス「おそらく、これらの技術かと。こればかりは推測しかできませんでしたが……、ヘキサルトさんの登場で、確証を得ることができました。」
アルキメシス「貴女が行使する力は、神の使っていた力と一致します。貴女は『神の設計図』を読み解ける人間なのです。」
ヘキサルト「私が、神様の力を……、」
アルキメシス「条件まではわかりませんが、誰でも読めるというものではありません。」
アルキメシス「事実、その置物に注視したのも貴女だけでした。」
ヘキサルト「……!」
カプナート「まさかお前、あの置物にも……!?」
ヘキサルト「……うん、歯車印が見える。」
カプナート「……!」
エルピス「あれも『神の設計図』!?」
アルキメシス「先ほどお見せした写真の場所から、持ってきたものです。やはり『神の設計図』の一つでしたか。」
アルキメシス「ヘキサルトさん、何か得た知識はありますか?私はそれを知りたくて、貴女をお呼びしたのです。」
ヘキサルト「え、えっと……どうですかね。ちょっと色々ありすぎて、混乱しちゃってるというか……、」
アルキメシス「そうですか……。」
ヘキサルト「あっ!で、でも、もう一回みたら、何かわかるかもしれません!ちょっと待ってくださいね!すぐに……!」
カプナート「……いや、いい。」
ヘキサルト「えっ……。」
カプナート「……。」
ヘキサルト「リーダー……。」
ヘキサルト「あの、その、手首痛いかなーって……、」
カプナート「……っ!わ、悪い。」
カプナート「何をやってるんだ、僕は……、」
ヘキサルト「……。」
ハードエッグ「確かに、これ以上は情報過多だな。」
ハードエッグ「ミスターアルキメシス、情報を整理する時間をもらいたい。内容が内容だ。すぐには理解が追いつかん。」
アルキメシス「ごもっともな話です。私も少し、興奮してしまった。」
アルキメシス「今日はこの辺りにしておきましょう。どう受け止めるかは、皆さまにお委ねいたします。」
アルキメシス「おとぎ話か、現実か。お好きな方をお選びください。」

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第二部四章

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