第58話:コーヒー、そしてゆで卵

「こーこーかぁ!」
タイロス「オイオイオイ襲われたって本当かオイ!無事なのか!無事なのかお前らぁー!」
トロボック「うーっす!」
エルピス「ずんちゃ、ずんちゃ。」
メルク「へーい。へーい。へーい。」
タイロス「……何やってるの?」
エルピス「踊っている。サックス……?の音色が私の体を突き動かす……。」
メルク「そして私は手拍子なのです。ヘイ、ナイスミュージックなのですよ。」
グロウル「……どうも。」
タイロス「あっ……そう。」
カプナート「……来てくれたのか、タイロス。」
タイロス「おおぉおおおお!坊主ぅぅぅぅ無事だったか!」
カプナート「ぐっ。やめろ、近い……。」
カプナート「すまない、マスター。泊めてもらった上に、騒がしくしてしまって。」
フェルナンド「なぁに、うちはコーヒーハウス。コーヒーさえ飲んでもらえるのなら、静かでもうるさくても、気にはしないさ。」
フェルナンド「っつーわけで、ご注文は?」
タイロス「じゃあカフェオレくれ!割合はミルク9、コーヒー1な!こいつにも同じの!」
トロボック「うっす!」
フェルナンド「はいよ。」
メルク「それは最早カフェオレなのです……?」
タイロス「いやぁ、しかしビビったぜ!急にモンスターが手紙を届けてきやがってさ!そしたらお前らが襲われたって書いてやんの!」
カプナート「タイロス。」
タイロス「そんで慌ててここまで来たんだけど、元気そうじゃねえか!まぁアンタみてぇなのはしぶといってのが相場だ!」
カプナート「タイ……、」
タイロス「というか、隣に座ってるねーちゃんはなんだー!人が心配してたのに、いいご身分だなオラァ!ねーちゃん、オレっちとも一杯どうだい?」
カルメン「きみのおごりならね。」
タイロス「だぁーその声は男か!?くそっくそっ、騙された!オレっちの純情を弄びやがって……!」
カプナート「前から言われているだろう、カルメン。その服装はやめろって……。」
カプナート「紹介する。こいつはカルメン。この街で警吏をやっている男だ。昨日のことについて、情報提供を依頼した。」
カルメン「お互いに、だけどね。」
ユウ「その様子だと、タイロスさんのほうは何事もなかったみたいですね。」
タイロス「おぅ、あんちゃんも元気そうじゃねえか!お前が一番心配だったけど、意外とタフだな!」
ユウ「ど、どうも……。」
テオ「朝からすっごい元気……。」
フェルナンド「はいよ、お嬢ちゃん。ミルクセーキとパンケーキ。イチゴはおまけだ。」
テオ「わぁあああ!ありがとう、おじさん!」
ユウ「テオも負けてないよ……。」
ハードエッグ「ついでにゆで卵もおまけだ。たくさん食べろ、栄養がある。」
フェルナンド「人の店で勝手にもの出さないでくれる?」
タイロス「うぉおおおお!?な、なんだこいつ!顔が卵じゃねえかぁあああ!?こいつか!?こいつがお前らを襲ったのか!」
カプナート「本当に落ち着け。彼は味方だ。」
タイロス「あぁん!?」
ハードエッグ「ハードエッグだ。私立探偵。時折メアリローサ嬢に雇われている関係で、君達の助っ人に参上した。」
ハードエッグ「ああ、彼とは初対面ではないな?俺の相棒のミスターだ。」
ミスター「ぴよぴよ。」
タイロス「あっ、その肩のモンスター!手紙をくれたのはあんただったのか!」
タイロス「いやぁ、勘違いしてすまねぇな!マスター、この卵にビール一杯!」
フェルナンド「コーヒーハウスだっての。」
カプナート「……手紙を読んで、わざわざ来てくれたのか。」
タイロス「まぁなー、怪我人も出たってことだし。見舞ぐらいはと思って……、」
タイロス「って!バッ、バッカヤロー!オレっちだって、最初は来たくなかったぜ?だけどチーム最年長として一応だなー……!」
トロボック「うっす……。」
ハードエッグ「残念だが最年長は俺になる。」
タイロス「おう!?何歳だ、言ってみろ!」
ハードエッグ「500を越えたあたりで、数えるのはやめた。」
タイロス「参りましたぁー!」
テオ「いや、さすがに500は嘘でしょ……。」
ユウ「なんというか……、タイロスさんが来てくれたおかげで、無事だった感が湧いてきたな……。」
メルク「なのですよ……。」
タイロス「あっ、そうだ!無事だったって言うけど、結局なんだったんだ?襲われたってのは聞いたけどよ……。」
カルメン「いま、その話をしてたんだよ。きみが来て、中断されてしまったけどね。」
タイロス「うぉっ、そ、そうだったのか……。」
ハードエッグ「まぁ、彼もチームの一員だ。内容を把握しておいたほうだいいだろう。」
カルメン「同じことを二度言うのはごめんだね。」
ハードエッグ「では、おさらいもかねて俺のほうから。まずは……、」

タイロス「なるほどな。鋭い斬撃を放つモンスターに、眼帯の男か。」
ハードエッグ「理解できたか?」
タイロス「ああ、一つを除いてな……。」
タイロス「あんたはなんで卵なんだ?」
ハードエッグ「ゆで卵がすっごい好きだから。」
タイロス「謎はすべて解けたぜ……。」
メルク「本当に全て解けた感じがすごいのですよ……。」
メルク「それで切り裂き魔のは、モンスターの方ということで確定なのです?」
カプナート「ああ、僕が以前切り裂き魔と対峙した時に聞いた鳴き声と、まったく同じ鳴き声をしていた。これは確実に言える。」
カプナート「カルメン、昨日の被害は?」
カルメン「きみたち以外にはないね。あのモンスターが切り裂き魔だったとすると、納得だ。」
カプナート「そうか……。」
カルメン「取り逃がしたのはいたかったね。」
カプナート「……ああ。」
ハードエッグ「後悔で身をすくめるのも時には必要だが、同時にゆで卵も茹でることをお勧めする。悩み終わる時には食べごろで、効率的だ。」
ハードエッグ「眼帯の男についても看過はできん。ユウ、他の者でもいい。襲ってきた男に心当たりは?」
ユウ「(同時に色々やろうってことか)ありません。『大将』って言う人と、勘違いされてたっぽいんですけど……。」
ハードエッグ「服装は……これだったな。」
タイロス「絵上手いな、卵の旦那。」
テオ「えっへん!これは、あたしが描いたのよ!魔法陣の練習をしてたおかげね!」
タイロス「へぇー、そりゃ大したもんだ……。」
フェルナンド「……これは、和の国の服じゃないか?」
タイロス「あん?」
フェルナンド「横からすまんね。ただ、前に読んだ本で見かけたことがある。」
ハードエッグ「俺も同じ意見だ。この男が持っている武器の形状は、和の国のサムライと呼ばれる戦士が使うものに似ていた。」
ハードエッグ「十中八九、この男は和の国出身だ。」
メルク「和の国。和の国……。みゅみゅみゅ、ますます心当たりがないのですよ。」
ハードエッグ「ふむ、そうか……。まぁいい、こちらに関しては明確な標的がある。接敵は切り裂き魔より容易だろう。」
エルピス「標的……。」
ハードエッグ「ユウだ。」
ユウ「や、やっぱり……。」
エルピス「ラプカさんといい、ユウは変なおじさんに人気あるね。」
ユウ「素直に喜べない……。」
ハードエッグ「ま、ユウ大好きおじさんについては、別で対応を考えておこう。」
ユウ「その呼び方やめてもらえませんか!?」
ハードエッグ「一番の問題はやはり切り裂き魔。たしか名前は……、」
ヘキサルト「おぉーっと!その先は私が説明するぜ、卵の名探偵ー!」
カプナート「ヘキサルト!」
ヘキサルト「おっはよーございまーす!ヘキサルトちゃん、ばっちり起床です!」
カプナート「お、お前、怪我は平気なのか?」
ヘキサルト「いやいや、大げさだなリーダーは!昨日の夜の時点で、重症じゃなかったじゃん!」
ヘキサルト「あー……それは、私が大袈裟に騒ぎ過ぎたからか。ごめん、心配かけました。」
カプナート「……いや。お前は別に……、」
カプナート「……傷も、残ってないんだな?」
ヘキサルト「うん、もうすっかりふさがったよ!あ、見る?わき腹あたりなんだけどねー……。」
カプナート「ぬあっ!?」
メルク「ヘキサルトさぁーん!たしなみ!たしなみなのですよぉー!」
ヘキサルト「うぉっと、失礼。」
カプナート「はぁ、はぁ、はぁ……!」
カルメン「相変わらずだな。」
カプナート「うるさい!」
カプナート「と、とにかく、問題ないならそれでよい。」
ヘキサルト「ういうい。問題ないことに定評があるヘキサルトちゃんです!」
カプナート「ヘキサルト、昨日は……、」
ヘキサルト「おう?」
カプナート「その……、なんといえばいいか……。」
ヘキサルト「ああ、昨日のモンスターの件!そうだそうだ、自分の話ばっかりで忘れてたよ!」
カプナート「……。」
カルメン「……。」
メルク「ヘキサルトさんは、あのモンスターの名前を知っていたと聞いたのですよ。」
ヘキサルト「うん、ジェイザールっていうんだ。主に地下の配管で暮らしているモンスターで……、」
ヘキサルト「私は一時、彼と一緒に暮らしてた。」
メルク「みゅ!?」
ヘキサルト「と言っても、何年も前のこと。一緒に過ごしたのも数ヵ月ぐらいの話だけどね。」
ヘキサルト「お互いに生き倒れかけてたところで意気投合して、そこから始まる共同生活、みたいな?」
ユウ「ワ、ワイルドォ……。」
ヘキサルト「たった数ヶ月だったけど、色々教えてくれたよ。飲める水と、飲めない水の違いとか。ありあわせの材料で作る寝床の作り方とか。」
ヘキサルト「あの知識がなかったら、今日までやってこられなかった。本当に感謝してるんだ……。」
ヘキサルト「まぁ、向こうは忘れちゃってるみたいだけどね!容赦なく攻撃されちゃった!あっはっはー!」
エルピス「先輩……。」
カプナート「……。」
ハードエッグ「どうして別れることになった?」
ヘキサルト「わからない。ある日、突然いなくなっちゃった。」
ヘキサルト「だから昨日はびっくりしたよ。まさに生き別れの親に再会した感じ?」
ヘキサルト「……だから、ちゃんと動けなかった。ごめんリーダー、迷惑かけました。」
カプナート「……いや。お前はあの場で、僕よりも冷静だった。親代わりのモンスターと敵対していたのに。」
カプナート「あそこで落ち度があったのは、僕だ……。」
カプナート「……守れないで、すまなかった。」
ヘキサルト「リーダー……。」
ユウ「……。」
タイロス「ずずず……。」
ハードエッグ「このムードで悪いが、話を進めよう。切り裂き魔が現れたことが確定した以上、この街にある何らかのものが狙われているのは確実だ。」
ハードエッグ「ヘキサルト嬢。ジェイザールについての情報が欲しいのだが、教えてもらうことは可能か?」
ヘキサルト「ああ、はい!できます!でもさっき言った通り、数ヵ月だから大した情報源には……、」
カルメン「0と数ヵ月では天と地の差がある。じゅうぶん、有益な情報になるさ。」
カルメン「ハードエッグ、いつものルートで情報を。わたしのほうで渡しておこう。」
ハードエッグ「ああ、頼む。……それでボス。」
カプナート「ぼ、僕のことか?」
ハードエッグ「ああ、間接的にとはいえ、俺は君に雇われているのだからな。聖宮はメアリローサ嬢に送るから心配なく。」
ミスター「ぴよよ!」
ハードエッグ「実際の配置を考えてほしい。」
カプナート「……僕は、昨日……、」
ハードエッグ「わかっている。だが、この場で君以外に作戦立案能力を持つ者がいない。」
ハードエッグ「適材適所だ。君が指揮をとれ。」
カプナート「……。」
カプナート「街に巡回の警吏を配備したい。それとジェイザールが襲いそうなものを、いくつかピックアップして待ち伏せを……。」
カプナート「……どう、だろうか。」
ヘキサルト「私はいいと思う!」
カプナート「ヘキサルト……。」
ヘキサルト「相手がジェイザールなら、待ち伏せは有効だよ!油断しているところへの一撃!つまり奇襲が得意だからね。」
ヘキサルト「街でウロウロしているよりも、先に迎え撃つ準備をしておくほうが、ジェイザールにとっては不利だ。」
ヘキサルト「私は、リーダーの作戦に賛成!」
カプナート「……。」
ハードエッグ「便所しよう。俺も賛成だ。他に、反対意見がある者はないか?」
ユウ「……大丈夫です。」
ハードエッグ「なら、この作戦だ。カルメン、今夜巡回を出すように提言しておいてくれ。」
カルメン「わたしが言わなくても、昨日の今日だ。いやというほど人員を出すだろうさ。」
ハードエッグ「結構。あとは誰がどこに行くかだな。」
ヘキサルト「あ、そのことなんだけど……、」
ヘキサルト「私を待ち伏せ組に入れてもらえないかな?」
カプナート「なっ……!一番ジェイザールとぶつかる可能性が高いんだぞ!?」
ヘキサルト「だからこそ、だよ。情報はできるだけ共有するけど、やっぱり実際に生活してた私とじゃ動きに差が出ると思う。」
ヘキサルト「一番ぶつかる可能性が高いからこそ、私はいなきゃいけないんだ。」
カプナート「……。」
エルピス「でもジェイザールは、先輩にとって……、」
ヘキサルト「うん、そうだね。だから私も……あの時に動けなかった。」
ヘキサルト「でも、奏鐘士になった時に決めたことがあるの。自分に出来ることは、全力でやり抜こうって。」
ヘキサルト「どんな障害があっても、私なんかを信じて、託してくれたんだから、それは全力でやり抜くんだって……決めたの。」
エルピス「……。」
ヘキサルト「私は昨日、それができなかった。……覚悟が足りなかったんだ。」
ハードエッグ「今ならできると?」
ヘキサルト「やる。やらなきゃダメなんだ。」
ハードエッグ「……。」
ヘキサルト「リーダー、お願い。」
カプナート「……っ。それは……、」
カプナート「……。」
カプナート「……わかった。お前を待ち伏せ組に入れる配置を、考えよう。」
ヘキサルト「……!ありがとう、リーダー!」
カプナート「……。」
ハードエッグ「大した度胸だ。激励をこめてゆで卵をあげよう。」
メルク「単純にあげたいだけではないのです……?」
ヘキサルト「わわっ、ありがとうございます!……うん、いい茹で加減だ。」
ハードエッグ「さて、そうと決まれば行動に移そう。ヘキサルトと俺はジェイザールの性質をまとめる。リーダーは?」
カプナート「ジェイザールが出現しそうな場所に、目星をつけておきたい。」
ハードエッグ「そういうことなら、フェルナンドに頼むといい。」
カプナート「マスターに?」
フェルナンド「やっぱりそっちの用事だったか。たまには純粋にコーヒーを楽しんでもらいたいね。」
ハードエッグ「悪いな。だが情報を仕入れるならお前が一番だ。」
テオ「どういう意味?」
ハードエッグ「フェルナンドは情報屋だ。街の情報であれば、こいつから買ったほうが早い。」
フェルナンド「切り裂き魔が出現しそうな場所だろ?いくつか心当たりはあるよ。」
タイロス「へぇー、おっさん情報屋だったのか!じゃあよ、この辺りの美人さんとかって……、」
フェルナンド「そういう個人情報は売る気はねぇよ。」
カルメン「……どうやら話はまとまったようだね。わたしはこれで失礼するよ。」
カプナート「ああ、情報感謝する。」
カルメン「同期のよしみだ。ああ、それともうひとつだけ。」
カプナート「なんだ?」
カルメン「いい加減、『おまえ』になれよ。」
カプナート「……。」

前<第57話:霧夜の襲撃者
次>第59話:進まない時の中で

第二部四章

タイトルとURLをコピーしました