第55話:蒸気満ちる駅

メルク「なんなのですよ、これはー!」
テオ「でーっかい!でーっかいわー!本当にこれが魔法の力もなしに動くの!?」
ヘキサルト「そーうだともぉーう!これも蒸気機関で動いているんだよ!」
ヘキサルト「さらにさらに!なんと一度に200人もの人を運べて!おまけに早い!馬車よりずーっとはっやーい!」
ヘキサルト「かぁーつもくせよぉー!これが機械の国が生んだ大!発!明!」
ヘキサルト「機関車だぁー!」
メルク、テオ「やんややんやぁー!」
ヘキサルト「まぁ、私も乗ったことないんだけどねぇーい!実物でっかぁああああい!」
ユウ「テンションが振り切れてるな……。」
テオ「ね、ユウにぃ!魔法じゃないんだって!すごいわ、すごくない!?」
ユウ「あ、ああ……。俺もモンスター以外で、こんなに大きな乗り物を見たのは初めてだ。」
メルク「長さといい、まるでアルゴーなのです……!」
テオ「あはははは!すごい、今からこれに乗るんだ!わーいわーい!やったねートト!」
トト「きゅ!?きゅきゅー!?」
ユウ「トトの手を取って、グルグル回るのはやめてあげて!?」
「絵葉書ー。機関車の記念に絵葉書はいかがですかー。」
テオ「エハガキ!」
「はいはーい、くださいなー!えっ、これは限定の模型!?こっちはマントォー!?」
メルク「観光地商法にバッチリ引っかかってるのですよ!」
「待てテオ―!気持ちは分かるが早まるなぁー!」
ヘキサルト「あははは、かわいいな~。初々しいっていうかさ!」
エルピス「まったくだね。衝動買いしちゃうあたり、テオもまだ若い。」
ヘキサルト「……後輩ちゃん?その手に持ってるクッソダサ……、面白い柄のペナントはなに?」
エルピス「なんとこれはセントギア中央駅限定!あとでヘスペラの角につけてあげるんだ。」
ヘスペラ「うぉるるる……。」
ヘキサルト「あー……、」
ヘキサルト「いいね!」
ヘスペラ「うぉるる!?」
エルピス「でしょ。」
エルピス「これ、先輩にもあげるね。ピラオロスにもつけてあげて。」
ピラオロス「ぽぉ!?」
ヘキサルト「……考えとくね。」
ピラオロス「ぽぉぉ……。」
ヘスペラ「うぉるるる。」
ピラオロス「ぽぉぉぉん。」
エルピス「うん、お揃いにできたら嬉しい。」
ヘキサルト「ふふ……。かわいい奴だなー、君は。」
エルピス「美少女奏鐘士だからね。はい、決めポーズ。」
ヘキサルト「そういう意味じゃ……まぁいっか。ガニ股はやめときなね?」
エルピス「溢れ出る喜びの感情!」
ヘキサルト「やめときなね!?」
メアリローサ「ふふふ、元気でよろしいこと。その様子だと、昨日はよく眠れたようですわね。」
ヘキサルト「あっ、メアリローサさん!おはようございます!」
ヘキサルト「……と。」
カプナート「はしゃぐな。みっともない。」
ヘキサルト「おはようございます、リーダー!」
カプナート「黙れ。」
ヘキサルト「挨拶しただけじゃん!?」
メアリローサ「よしなさいな、カプナートさん。これから一緒に行動する仲間なんですのよ?」
カプナート「仲間……?お言葉ですが、我々はリーダーと部下の関係です。」
カプナート「寄せ集めのチームなので、敬語を使えまでとは言いませんが……。馴れ合いは一切必要ないかと考えています。」
エルピス「手厳しい……。」
メアリローサ「もちろん、線引きは必要なことですわ。ですが、急遽集まったチームだからこそ、意思疎通の強化を……、」
カプナート「無礼を承知で申し上げますが、実働については貴女より私の方が経験豊富です。女性の貴女は前線に立ったことはないでしょう。」
カプナート「私には私の……父から学んだやり方があります。選んでくださったのなら、黙ってお任せください。」
メアリローサ「……そうですわね。」
カプナート「感謝します。」
エルピス「えぇっと……。」
ヘキサルト「前途は多難だね、こりゃ……。」
ピラオロス「ぽぉぉ。」
カプナート「私語は厳禁。」
ヘキサルト「あ、もう始まってる!?失礼しましたっ!」
カプナート「ふん……。」
カプナート「出発前にミーティングだ、集合!」


カプナート「まず最初に言っておくことがある。」
カプナート「僕達は観光に行くわけではない。そういう浮かれた気持ちがあるのなら、この場に置いていけ。いいな?」
テオ「ご、ごめんなさい……。」
ユウ「あ、あの……。」
カプナート「発言がある場合は挙手。」
ユウ「は、はい!」
カプナート「……なんだ。」
ユウ「テオは旅に出るのを楽しみにしていて……。だから、少しだけ目を瞑ってやってくれないか?」
テオ「ユウにぃ……。」
カプナート「それはお前達の都合だ。僕の知ったところではない。」
ユウ「うっ……はい。」
ユウ(ごめん、テオ……)
テオ(ううん。ありがとう、ユウにぃ)
メアリローサ「……。」
カプナート「いいか、僕達は設計議会直下のチーム。それは、設計議会の名前が僕達の肩には乗っているということだ。」
カプナート「つまり、僕達の失態は設計議会の失態。ひいては国の失態であるということを自覚しろ。」
メルク「せ、責任重大なのですよ……。」
エルピス「緊張してきた……。」
カプナート「それでいい。常にその気持ちを持って行動しろ。」
カプナート「チーム全員が、だ……。例外はない。」
ユウ「ん……。」
メルク(どうかしたのです?)
ユウ(いや、ちょっと既視感が……)
カプナート「私語は厳禁!」
ユウ「すみませんっ!」
カプナート「緊張感を持てと言ったばかりで、これか!いいか、そういう油断が任務の失敗を招くんだ!」
カプナート「先に宣言しておく。僕がリーダーである以上、このチームでそういった緩みは断じて……!」
「やぁ、お姉さん。オレっちと一緒にちょっくら自分探しの旅に出てみないかい……?」
カプナート「断じて……!」
「へーい、そこの彼女!セントギア中央駅名物の機関車炭酸水!オレっちと飲まないかーい!」
カプナート「……。」
ユウ「ふ、震えている……。」
ヘキサルト「リ、リーダー。気になるのはわかるけど、続けて続けて……。」
カプナート「僕の前で、あんな行動を取ってみろ……!即刻、縛り上げて!つるしてやる!」
メアリローサ「あー、カプナートさん?」
カプナート「なんですかっ!」
メアリローサ「彼、なんです。」
カプナート「なにがっ!」
メアリローサ「最後の、一人……。」
カプナート「なっ……!?」
「おう?おうおうおう!?」
?(タイロス)「おぉーう、そこにいらっしゃるのは!我が麗しの雇い主、メアリローサ様ではありませんかぁ!お待ちしておりましたぜぇーい!」
ヘキサルト「すっごい、ナンパからナンパのコンボだよ。」
メルク「見られていたとは考えないのです……?」
?(タイロス)「よしよし、今日はあの医者野郎はいねぇな?ひっひっひ!ならば抜け駆けチャンスというもんよ!」
メアリローサ「タイロスさん。要請に応じていただき、ありがとうございます。」
タイロス「なぁに言ってんですかい!メアリローサ様の頼みであれば、いつだってお引き受けしますよ!」
タイロス「オレっちの心は、メアリローサ様だけのものですから。」
メアリローサ「さっきあの子にちょっかいをかけてましたわね?」
タイロス「げぇえええ、見てたんですかぁー!?」
カプナート「……っ!」
ユウ「あぁー待って待って!糸出さないで!」
ヘキサルト「チャンスあげよ!ね!ね!?」
タイロス「あ、あれにはふかーい事情がありましてですね!な、そうだろ?説明してくれよ、トロボック!」
トロボック「うっす。」
テオ「わは!かわいい!」
タイロス「ふふ、そうだろう。トロボックって言うんだぜ、お嬢ちゃん?どうだい、二人っきりでこいつについて語り合わないかい?」
ユウ「テ、テオー!?」
テオ「悪いけど、あたしはお兄さんみたいな人、タイプじゃないから……。」
タイロス「小さいのにしっかり言うな、オイ!」
メアリローサ「タイロスさんと長く付き合うコツに関しては、後でお渡しする『女性必見タイロス対策マニュアル』に詳細に書いてあるので、目を通しておいてください。」
タイロス「なんスか、それ!?」
メアリローサ「それでは、改めてご紹介しますわ。」
カプナート「やめてください。」
メアリローサ「この方はタイロスさん。みなさんが乗る蒸気機関車の車掌ですわ。」
カプナート「勘弁してください。」
タイロス「さっきからひどいぜ坊主!」
トロボック「うっす、うーっす!」
メアリローサ「ああ、そうでしたわ。ごめんなさいね、トロボック。」
メアリローサ「彼はトロボック。チーム単位で、機関車のサポートをしているとっても頼もしいモンスターですわ。」
カプナート「これから頼むぞ、トロボック。」
トロボック「うっす」
タイロス「おい坊主!オイ!メインオレっち!そいつオマケ!」
カプナート「チッ!」
タイロス「でっかい舌打ち聞こえたよ!?」
メアリローサ「ま、まぁ性格はともかくとして……、機関車乗りとしての腕前は一級品ですわ。それは私が保証します!」
タイロス「オレっちを認める発言……。はっ!もしやこれはプロポーズでは!?」
メアリローサ「腕はいいんですの!本当に!人格と技術力は必ずしも一致するとは限りませんわ!」
ユウ「わ、わかりました!わかりましたから!だから必死な形相で俺の肩を掴まないで!」
カプナート「ああ、もういい!たくさんだ!」
カプナート「この際だからハッキリ言っておく!僕はお前達をいっさい信用していない!」
カプナート「まず、頭のねじが抜けた本能で動くバカ!」
タイロス「オレのこと!?」
カプナート「緊張感皆無の余所者!」
ユウ「す、すみません……。」
カプナート「そして、お前だ!」
ヘキサルト「わ、私ですか!」
カプナート「いつもヘラヘラ笑って鬱陶しい!おまけに距離感が近い!もう少し離れろ!」
ヘキサルト「私だけ私怨混じりな気がします!」
カプナート「黙れ!」
カプナート「お前達がバカでいることは最早知らん!好きにしろ!だが、任務の邪魔だけはするな!僕には従え!」
カプナート「わかったな!」
エルピス、ユウ、メルク「は、はいー!」
カプナート「ふんっ!行くぞ、トロボック!案内しろ!」
トロボック「う、うーっす!」
ヘキサルト、タイロス、テオ「……。」
テオ「あ……、」
テオ「あんな言い方はなくない!?」
テオ「確かに騒いでたのは悪いは!ごめんなさい!けど、自分だって常にイライラ隠さないでいるクセにー!む、む、むきぃー!」
ユウ「ま、まあまあ。カプナートはカプナートで色々あるんだろうし……、」
タイロス「そうよそうよ、その子の言う通りだわ!ちょっとナンパしたぐらいで、あんなに怒ることはないわよねー!」
ユウ「いえ、それはちょっと弁解できません。」
タイロス「そうなのっ!?」
メアリローサ「はぁ……。予測はしていたのですが、それを上回る結果ですわね……。」
メアリローサ「タイロスさん。貴方の趣味をとやかく言いたくありませんけど、今回は少し控えたほうがよいと思いますわよ。」
タイロス「お、おう……。けどまさか、あんなに怒るとは思ってなくてよ……。」
メアリローサ「きっとナンパという行動、そのものが許せなかったのでしょう。守るべきジェントルマン精神ですわ。」
メアリローサ「ただ今回の怒りに、余裕のなさが含まれているのも事実でしょうけど。」
ユウ「余裕……。」
ヘキサルト「……。」
エルピス「どう接するのがいいんだろう……。」
メアリローサ「自然体で構いませんわ、エルピスさん。協力は必要ですが、屈服する必要はありません。」
メアリローサ「そして貴方だちも自然体の……、ありのままのカプナートさんを知るのです。」
エルピス「ありのままの、カプナートを……。」
メアリローサ「そうすればおのずと、接し方というものが見えてくるはずですわ。貴方たちも。カプナートさんも。」
タイロス「あ~……。なるほど……?」
ヘキサルト「……。」
ヘキサルト「わかりました。」
メアリローサ「結構ですわ。」
メアリローサ「さぁ、もう出発の時間ですよ。タイロスさん、年長者としての振る舞いをお願いしますわ。」
タイロス「えぇー、オレっちはただの機関車乗りですよ?そこんところ期待されてもなー。」
メアリローサ「お、ね、が、い、し、ま、す、わ。」
「へぇーい……。」
メアリローサ「まったく……。いつまで、捻くれ者がカッコいいと思っているんだか。」
ユウ「メアリローサさん、そしたら俺たちも……。」
メアリローサ「あ、そうですわ!これをお持ちになって。」
ユウ「これは鳥型の……笛、ですか?」 
メアリローサ「商業都市について、もしどうしても困ったことがあれば、それを吹きなさい。とっておきの助っ人が駆けつけてくれるはずですわ。」
メルク「とっておきの助っ人……なのです?」
メアリローサ「詳細は来てからのお楽しみ……、ですわ。だけどとってもハードボイルドな方ですわよ。」
メルク「ハードボイルド!それはぜひ会ってみたいのですよ……!」
ユウ「あこがれぇ……。」
エルピス「ユウが憧れって目をしている……。」
トト「きゅきゅ……。」
メアリローサ「ふふ、引き留めてごめんなさいね。さぁ今度こそ出発の時です!みなさん、お気をつけて!」
メルク「はいなのです!行ってくるのですよー!」
ヘキサルト「必ず切り裂き魔を捕まえて来ますからー!」
メアリローサ「ええ、期待していますわ!」
メアリローサ「本当に、心から……。」
メアリローサ(でも少し……荒療治が過ぎるのではなくて?ローカク議員)


メアリローサ「カプナートさんをリーダーに?」
「候補には上がっていたはずです。どうですか、君の目から見て彼は。」
メアリローサ「彼個人に関しては、申し分ありませんわ。真面目で誠実、自分の仕事にも誇りを持っている。」
メアリローサ「ですが、今回のチームの性質とは相性が悪いのではなくて……?本当に色んな人間が集まる予定ですのよ?」
メアリローサ「正直、衝突は必至かと……。」
「だからこそ、です。」
「彼にはまだ、知らないことが多すぎる。……そうなったのは僕の責任でもありますが。」
「この国を守る立場に立つのであれば、彼は知らなければなりません。歯車の違いを。そしてその繋げ方というのを。」


メアリローサ(言っていることはわかりますわ。ですがやっぱり、乱暴な方法。結果応じてしまった私も私、ですけれど……)
メアリローサ(……でも、不思議ですわね。ちょっぴり期待している私もいます)
メアリローサ(規格違いの歯車、未知の部品。彼らがきっちりと組みあい、ひとつの装置として動き出したら……)
メアリローサ「そのためには、カプナートさんだけではない。全員が互いを知り、受け入れる必要がある……。」
メアリローサ「……頑張ってくださいね、みなさん。私も精一杯、援護させていただきますわ。」

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第二部四章

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