第5話:『私』

?(エルピス)「いや、他人だよ。」
メルク「ばぁーっさりなのです!?」
?(エルピス)「血も繋がっていないし、会話もロクに交わしていない。カテゴリーとしては、お互いに他人に属すると思う。」
メルク「そ、そうかもなのですが!ええと、私の言いたいのはそういうことじゃないのですよ!」
?(エルピス)「……?よくわからない。」
?(エルピス)「わからないと言えば、メルク達の行動も。最初の方はともかくとして、どうして最近は奇行ばかり繰り返していたの?」
メルク「奇行!?」
?(エルピス)「理解できないことの連続で、どうしても疑問が湧いてしまい、『私』が出てしまった。『メルク』になることができなかった。」
?(エルピス)「そのせいでズレができてこうやって、またあなたが落ちてきてしまって……。」
メルク(よ、よかったのですよ~!ユウさんたちが協力してくれたことはちゃんと実を結んでいたのです!)
?(エルピス)「何もかもわからない。あんなことをして、何をしたかったの?」
メルク「みゅふふ、私を見ていたのなら知っているのでは?」
メルク「あなたに会いに来たのですよ!」
?(エルピス)「……わからない。」
?(エルピス)「前にも言ったはず。私に、会いに来てもらうほどの意味はない。」
メルク「どうしてそう思うのです?」
?(エルピス)「あなたを通して世界を見て、理解したから。」
?(エルピス)「人にも、モンスターにも名前があって、家族がある。生まれてきたという証明と意味を持っている。」
?(エルピス)「でも、私にはそのどちらもない。目覚めても誰もいなくて、自分を示す記号は何もない。だから中身は空っぽ、すっからかんだ。」
?(エルピス)「空っぽのものと関わっても、得るものは何もない。私は何もあなたに返すことができない。」
?(エルピス)「だから、私と関わる意味がない。それはきっと、貴重な時間の浪費だよ。」
メルク「……。」
?(エルピス)「わかってもらえた?」
メルク「……はいなのです。あなたが置かれている環境や思いは、ちょっとだけなのですがわかったのです。」
?(エルピス)「理解を得られて良かった。」
?(エルピス)「それじゃあ、今度こそ……、」
メルク「それから……、」
メルク「会いに来たことは無駄じゃなかった。そのことも、よくわかったのですよ。」

メルク「みゅ……。」
メルク「みゅみゅみゅみゅ!?」
?(エルピス)「みゅ、多いね。」
メルク「こ、これはいったいどういうことなのです!?さっきまで真っ暗な場所にいたはずなのですよ!」
メルク「そ、それにここは……、私たちの家なのですよ!」
?(エルピス)「理屈はわからない。でも、推測はつく。」
?(エルピス)「メルクは、ここに関係あることを言いたいんだね?」
メルク「みゅ……。」
メルク「……たしかに、そうなのです。みゅふふ、そうであれば、これはなかなか気の利いた演出なのですよ。」
?(エルピス)「じゃあ、教えて。あの話を聞いて、どうして無駄じゃないと思ったの?」
?(エルピス)「ううん、違う。そもそもメルクは、何のために私に会いに来たの?あなたが求めている物は、なに?」
メルク「何もないのですよ。」
メルク「だって私は、あげにきたのです!」
?(エルピス)「……。」
?(エルピス)「フライもの?」
メルク「そ、そっちの揚げるではなく!ギブ!与えるほうのあげる、なのですよ!」
?(エルピス)「ギブ……。」
メルク「たしかに今のあなたは空っぽだと思うのですよ。それはきっと、否定してはいけない現実なのです。」
メルク「でも空っぽなだけなら、好きな物を詰め込んでいけばいいだけの話なのですよ!」
?(エルピス)「詰め込む?……そんなこと、していいの?」
メルク「生まれたときは空っぽでも、最後の瞬間まで、そのままでいなきゃいけない理由はないのです!」
メルク「あなたが望むのであれば、何を詰め込んだって構わないのですよ!」
?(エルピス)「……。」
?(エルピス)「つまり、メルクはこう言ってるの?」
?(エルピス)「私自身が望むなら、『意味』を持っても構わない、と。」
メルク{なのですよ!」
?(エルピス)「……。」
メルク「みゅ……。よ、予想より無反応なのですよ……。」
?(エルピス)「そんなことはない。これでも、めちゃくちゃ動揺している。メルクを通して学んだ言葉で言えば……、」
?(エルピス)「どひゃー。」
メルク「それは私の人生のどのあたりで登場した言葉なのですよ!?」
?(エルピス)「……本当に、驚いている。私が意味を持っていいなんて、考えたこともなかった。」
?(エルピス)「目覚めた時の状況は絶対で、それに準じるべきなんだとばかり。」
メルク「そんなことはないのですよ。あなたの置かれている環境を顧みるにそう思っても、仕方がないのかもしれないですが……、」
メルク「でも、そんな理不尽なことは絶対にないのですよ。人生は納得がいくまで、何度も方向転換して良いのです。」
?(エルピス)「……そうなんだ。そういうもの、なんだね。」
メルク「なのですよ!」
?(エルピス)「でも、問題がある。」
メルク「あなた自身がどんな『意味』がほしいか、それがわからないということなのです?」
?(エルピス)「なぜ、わかるの?」
メルク「みゅふふふ、言ったはずなのですよ。あなたのことは他人だと思えないと……!」
?(エルピス)「他人だよ。」
メルク「2度もバッサリと!ち、違うのです!これはいわゆる比喩!比喩表現なのです!」
メルク「他人とは思えないほど、親近感を覚えるという意味なのですよ~!」
?(エルピス)「……なるほど。」
?(エルピス)「でも、それじゃあなおのことわからない。私たちが言葉を交わしたのは、たった2回。それも充分な時間だとは言えなかったはず。」
?(エルピス)「その中で、あなたは私の何に親近感を覚えたの?」
メルク「……。」
メルク「あなたは、ユウさんと出会えなかった私とそっくりなのですよ。」
メルク「以前に1度だけ想像したことがあるのです。もし目覚めたときにユウさんがいなくて、私はたったひとりだったら、と……。」
?(エルピス)「どんなのだった?」
メルク「今のあなた、そのままだったのです。名前もなく、家族もなく、自力では移動もできないから人とも交流できない。」
メルク「きっと、あなたと同じように思い、考えるのです。『自分に生まれた意味なんてない』と。」
?(エルピス)「でも、違う。」
メルク「なのです。実際の私は、ユウさんと出会えた。名前と居場所を貰えたのです。」
メルク「ちょうど、この場所で。」
?(エルピス)「……。」
メルク「だから、私は思ったのですよ。私が、あなたのユウさんになれないかと。」
?(エルピス)「……。」
?(エルピス)「メルクはユウじゃ……、」
メルク「比喩!これも比喩なのです!」
?(エルピス)「難しい。」
メルク「みゅ~、あなたにはストレートに言った方が伝わる気がするのです……。」
メルク「もう少し溜めるつもりだったのですが、ズバリ言ってしまうのですよ!」
?(エルピス)「……?」
メルク「友達になってほしいのです!」
?(エルピス)「友達?」
メルク「なのです!自分で意味が見つけられないというのであれば、ひとまずは人に意味を貰ってはどうなのです?」
メルク「私も始まりは自分ではなく、人から貰った『意味』だったのですよ。」
メルク「自分で自分の意味を考えて、それを求め始めたのは、もっともっと先の話なのです。」
?(エルピス)「……。」
メルク「きっと、最初はそれで良いと思うのです。歩き出すことができずに、その場でジッとしてしまうよりは、よっぽど。」
メルク「だから、あなたもどうなのです?ひとまず、『私の友達』というところから始めてみるというのは!」
?(エルピス)「……。」
?(エルピス)「……本当に、そこにいってもいいの?」
メルク「大歓迎なのですよ!」
?(エルピス)「……そっか。」
?(エルピス)「……。」
?(エルピス)「ありがとう、メルク。あなたがそう言ってくれるのなら……。」
?(エルピス)「私は……、」
メルク「はいなのですよ。」
?(エルピス)「……。」
?(エルピス)「そこから、『私』を始めてみようと思う。」
メルク「……嬉しいのですよ。私の友達になってくれて。」
メルク「これから、よろしくなのです。」
?(エルピス)「うん、よろしく。」
メルク「こうなればやることは山積みなのですよ!まずは友達なのですから、遊びに行かなくては!ひとまず、集合場所はここでいいのです?」
?(エルピス)「ああ、そのことで問題が。」
?(エルピス)「私、もうここには来れない。」
メルク「みゅ!?」
?(エルピス)「あっ、さっそく。」
メルク「みゅみゅみゅー!?なぜ体が透け始めているのです!?」
?(エルピス)「なぜって。前も言ったけれど、ここはあなたの中。私が自我を出しただけでズレるぐらい繊細な場所。」
?(エルピス)「まぁ、その時は『え、違いますよ?私はメルクですよ?やだなぁ世界さん。あーっはっはっは』っていう感じの迫真の演技で乗り越えてきたけれど……。」
メルク「この世界の判定はどうなっているのです!?」
?(エルピス)「今度はダメみたい。世界が完全に私を異物だと認識してしまった。」
メルク「い、今までそんなにガバガバだったのに……。急に、どうしてなのです?」
?(エルピス)「え、だって。私、『メルクの友達』になったから。」
メルク「みゅ……?」
?(エルピス)「『メルクの』という時点で、メルクじゃないことが確定だから……うん。これを誤魔化すのは、かなり厳しい。」
メルク「良かれと思ったことが裏目に出たのですよー!?」
?(エルピス)「あ、すごい。足が消えたのに立っていられる。なんだろう、不思議な感覚。」
メルク「どうしてそんなに冷静でいられるのです!?」
メルク「みゅ~、ど、どうするのです!?こうしている間にも、どんどん薄くなって!このままじゃ、前回と同じお別れなのですよ!」
?(エルピス)「いや、今度は私の方が消えるから完全に同じということはできないと思う。」
メルク「やっぱり妙に冷静では!?」
?(エルピス)「正直、メルクが友達になってくれた瞬間に、だいぶ安心してしまった自分がいる気がする。」
?(エルピス)「ここでお別れになっても、メルクが友達でいてくれるのなら、まぁいいかなと。」
メルク「う、嬉しいのですが、複雑な気分なのですよ……!もっと話したいことがあるのですよ~!」
?(エルピス)「でも、今生の別れというわけでもないし、そのうち現実の方でひょっこり会えたりするかもしれない。」
メルク「そうかもしれないのですがー!」
メルク「……みゅ?現実?」
メルク「そういえば、『眠る』とこの世界に来てしまうと言っていたのですよ?」
?(エルピス)「うん。」
メルク「つまり、目を覚ませばあなたには生身の体が?」
?(エルピス)「あるよ。すこぶる健康的な肉体が。」
メルク「それなのですよ!」
?(エルピス)「えっ。」
メルク「私たちはまたすぐに会えるのです!会えるのですよー!」
?(エルピス)「いったいどういうこと?」
メルク「簡単なことなのです!ちゃんと体があるのなら、現実世界で会えばいいのですよ!」
?(エルピス)「……なるほど。会える日を待っているのではなく、直接会いに行く、ということだね。」
メルク「やったのです!やったのですよー!」
?(エルピス)「うん、やったね。私も嬉しい。また会えるのであればそれが良い。」
?(エルピス)「でも喜んでるところ悪いんだけど、私、もう1分も持たないと思う。」
メルク「みゅわ~!ほ、ほぼ背景と同化してしまっているのですよ!」
?(エルピス)「落ち着いて、メルク。私はどこにいけばいい?どこにいけば、またあなたに会えるの?」
メルク「そ、そうなのです!それではえっと、えっと……、」
メルク「王都!王都で待ち合わせるのですよ!」
?(エルピス)「王都。」
メルク「私はそこでずっと待っているのです!あなたに会えるまで、ずっと!だから、必ず……!」
?(エルピス)「うん、必ず行く。あなたに会いに行く。」
メルク「……約束なのですよ。」
?(エルピス)「うん、約束。」
?(エルピス)「……ああ、もう限界みたい。」
?(エルピス)「それじゃあ、ね。また、王都……、」
メルク「みゅ!」
メルク「……待っているのですよ。」
「ごめんなさい。最後にひとつだけ。」
メルク「まだいるのです!?」
「うん、なんかこう、よくわからないけど友情パワー……?みたいな、そんなので。」
メルク「疑問符がつく力によって逆によく自分を保てるのですよ……。」
メルク「そ、それで何なのです?」
「王都で出会った時、私のことを、名前で呼んでほしい。」
メルク「そ、それはお安い御用なのですが、でも、あなたには名前が……、」
「うん、だからメルクがつけて。」
メルク「わ、私がなのです!?」
「あなたが呼んでくれるなら、どんな名前でもいい。……ダイフクとかでも、甘んじて受け入れる。」
メルク「ず、随分懐かしい名前なのですよ!」
「ただ、あなたに呼んでほしいの。私に意味をくれた、あなたに。」
メルク「……。」
メルク「わかったのですよ。」
メルク「実は、あなたにぴったりだと思っていた名前があるのです。」
メルク「それは、私が初めて読んだ物語の主人公の名前なのです。」
メルク「私から夜の寂しさを取り払って、外への希望を与えてくれた名前なのです。」
メルク「今度は、あなたにとっての希望となりますように。この名を呼ばれるたびに、今日を思い出せますように。そう祈りを込めて、名づけさせてもらうのですよ。」

「エルピス。」
「あなたの名前は、エルピスなのです。」
?(エルピス)「……エルピス。」
エルピス「名前負け、しないといいけど。」

第二部一章

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