第11話:そして、これから

ユウ「……。」
メルク「……。」
トト「……。」
エルピス「……。」
「ぐ~。」
エルピス「あ。」
ユウ「……ごめん。」
エルピス「謝らないで。今のはちょっと……油断しただけだから。」
ユウ「油断してお腹が鳴ってる時点でまずいだろ!」
ユウ「やっぱりこのままじゃダメだ!どこかの店に入ろう!」
メルク「で、でも、お金がないのですよ?」
ユウ「お。お皿洗いで何とかする……!」
エルピス「そこまでしてくれなくても……。」
ユウ「でも、これじゃああんまりだろ!お互いに長い道のりを越えてここまで来たのに……!」
ユウ「食事のひとつも、できないなんて!」
メルク「仕方がないのですよ……。王都は食事もお高いのです。」
ユウ「宿は長期で取っているから、もう少しは大丈夫だけどこっちの方は、うーん……。」
エルピス「ありがとう、ユウ。色々と気を遣ってくれて。」
エルピス「でも私はこうやってメルクに会えただけで充分だから。」
メルク「みゅふふ、それは私もなのですよ~。再会できて本当によかったのです!」
エルピス「うん、そうだね。」
ユウ「……そうか、2人がそう言うなら。」
「ぐ~!」
エルピス「……。」
ユウ「ごめん……。」
メルク「最初に戻ってしまったのですよ……。」
エルピス「ユウが謝ることじゃない。私が、王都の物価を完全に舐めていて、お金をわずかにしか持っていなかったのが悪いの。」
エルピス「それに今は、この空腹を共有できることすら愛おしく思えて……、」
「ぐ~!」
エルピス「……。」
メルク「愛おしく思えてる人の表情じゃないのです……。」
エルピス「ふふ、こんな表情もできるようになったよ……。」
メルク「みゅ、みゅう……。」
メルク「とりあえず、宿屋に帰るのですよ。きっと寝てしまえば、空腹も忘れられるのです。」
ユウ「ああ、それもそうだな……。明日のことは、明日考えよう。」
エルピス「うん、そうしよう。」
エルピス「おっと……。」
メルク「だ、大丈夫なのです?ふらふらしているのですよ?」
エルピス「大丈夫。若干、視界が朦朧としているだけだから。」
メルク「それは大丈夫とは言わないのですよー!?」
ユウ「あ、エルピス!前!」
エルピス「マエ?」
エルピス「あいたっ。」
ユウ「ああ、遅かったか……!前から人が歩いてくるって言おうと思ったんだけど。」
エルピス「ん……。不注意だった。ごめんなさい、大丈夫?」
?(スケアヘッド)「……。」
エルピス「えっと……?」
?(スケアヘッド)「どうしてくれる。」
エルピス「え?」
?(スケアヘッド)「お前のせいで、俺の心境は最悪だ。休息の時間だったのに、この苛立ちをどうしてくれる。」
エルピス「あ、えっと、ごめんなさい……。」
ユウ「す、すみません、俺からも謝ります。」
メルク「こちらの不注意で、申し訳なかったのですよ。」
トト「きゅきゅ~。」
?(スケアヘッド)「何を言っている。苛立たせているのはお前たちもだ。」
ユウ「えっ!?」
?(スケアヘッド)「揃いも揃って『長い旅路に疲れて空腹だけど、金が無いから何も食べられません』という顔をしている。」
ユウ「いやに具体的ですね!?」
エルピス「お見事、正解。」
?(スケアヘッド)「そうか。賞金はいくらだ?」
エルピス「準備してない。」
?(スケアヘッド)「チッ、ぬか喜びをさせるか。どこまでも腹の立つ連中だ……。」
ユウ(最後のも、こっちの責任なのか!?)
?(スケアヘッド)「もういい、話していても埒が明かん。お前達には体で償ってもらうとしよう。」
ユウ「体で!?に、肉体労働とかですか!?」
?(スケアヘッド)「ガタガタ騒がずについてこい。逃げようとしても無駄だからな。」
?(スケアヘッド)「ククク、容赦はしない。覚悟しておくことだ。」
ユウ「ひ、ひぇええええ……!」
エルピス「ひえー。」

酒場の店員「いらっしゃいませー!ご注文はお決まりですか?」
ユウ「……え?」
?(スケアヘッド)「このワインをボトルで。あとはミックスジュースを人数分。」
ユウ「え?」
酒場の店員「かしこまりました!お食事の方はいかがいたしましょう?」
?(スケアヘッド)「食べたいものはあるか?」
ユウ「え!?」
エルピス「マフィン。」
ユウ「えぇっ!?」
?(スケアヘッド)「ではマフィンにスクランブルエッグとボイル野菜を添えてプレートに。このトマトのスープもつくてくれ。」
酒場の店員「はい、かしこまりました!そちらの方は何にしましょう?」
ユウ「え、え、え!?」
?(スケアヘッド)「え、ばかり言ってないでさっさと決めないか。時間の無駄だ。」
ユウ「は、はい!」
ユウ「え、えっと、それじゃあ、このモンスター用のマッシュポテトと、あとこのスパゲッティを……、」
?(スケアヘッド)「オイ。」
ユウ「ひぇっ!?ナ、ナンデショウカ……?」
?(スケアヘッド)「そんな安いものを選んでどういうつもりだ。それが特別に好きなのか?うん?」
ユウ「チ、チガイマス……。」
?(スケアヘッド)「ならばもっと高いものを食え。支払いのことであれば、お前が配慮する必要は皆無だ。」
?(スケアヘッド)「言っただろう。俺が、ご馳走してやると。」
ユウ「ひぇえええ!?」
メルク「お、落ち着くのです、ユウさん!別に怯える言動ではなかったのですよ!?」
ユウ「だ、だって、あの流れからご馳走っておかしいだろ!警戒してしかるべきだろ!?」
メルク「ま、まぁ、言いたいことはわかるのです……。」
エルピス「ヘーイ、マーフィーン。ヘーイ、マーフィーン。」
ユウ「エルピスはもう完全に浮かれちゃってるし俺が、俺がしっかりしないと……!」
酒場の店員「え、ええっと……?」
?(スケアヘッド)「戸惑わせてすまないな。彼は色々と駄目そうだから、俺が注文しよう。」
?(スケアヘッド)「そうだな、では彼には季節のスパゲッティを。あとはミートドリア、フライドポテトを大盛で。それから白身魚のステーキをソース抜き、塩だけで。」
ユウ「そんなに食べられませんよ!?」
?(スケアヘッド)「俺が食べるんだ。」
ユウ「アッハイ……。」
?(スケアヘッド)「お前は食べられないんだったな。」
メルク「は、はいなのです。」
?(スケアヘッド)「では、あとはモンスターの料理だ。ふむ……、野菜のテリーヌはどうだ?」
ユウ「た、高いヤツだ……!トト、もうちょっと安いものに……!」
トト「きゅきゅ~!」
ユウ「トトー!」
?(スケアヘッド)「決まりだ、これで頼む。時間を取らせてすまなかったな。」
酒場の店員「いえいえ、とんでもございません!では、少々お待ちを~。」
?(スケアヘッド)「ふぅ……。料理はこの待つ時間だけが無駄だな。」
ユウ「あ、あの……!」
?(スケアヘッド)「なんだ?」
ユウ「い、意図はなんですか?あんなに怒っていた後に、ご馳走だなんて……。それに、身体で償ってもらうというのは?」
?(スケアヘッド)「ああ、簡単な話しだ。」
?(スケアヘッド)「お前達を太らせ、まずい病気になるのを観察させてもらおうと思ってな。」
ユウ「復讐内容が特殊すぎませんか!?」
?(スケアヘッド)「クク、冗談だ。俺はそんな特殊な趣向は持ち合わせていないさ。」
?(スケアヘッド)「単純に、お前達の顔を見ていると腹が立つだけだ。そのいかにも『金が無い』という顔を見ているとな。」
ユウ「うっ、た、たしかにありませんけど……。」
?(スケアヘッド)「特に金を使う前はなおさらだ。『不幸です』というオーラを撒き散らして、不快であることこの上ない。」
?(スケアヘッド)「だから償ってもらう。腹いっぱいにでも食べてもらって、その苛立つ表情を2度と俺に見せるな。」
メルク「みゅ!では、あなたは私たちを不憫に思って……?」
?(スケアヘッド)「哀れみなどではない。言ったはずだ。その顔を見ていると腹が立つ、と。これはその怒りを鎮めるための行動だ。」
?(スケアヘッド)「ここでその表情を脳内から締め出しておかなければ、今後、気持ちよく出費することができないからな。」
ユウ「な、なるほど。意図が全部理解できたわけではないですけど、そういうことだったんですね……。」
ユウ「すみません。その、疑ってしまって……。」
?(スケアヘッド)「謝罪など1ゴルドの足しにもならん。悪いと思うのなら、こいつらのように償いを果たせ。」
エルピス「マ・フィ・ン。マ・フィ・ン。ありがとう、初めてあう人。とても嬉しい。」
トト「きゅきゅ~!」
メルク「な、なるほど。とてもお金が無い人の顔には見えないのですよ。」
ユウ「あはは……、見習います。」
?(スケアヘッド)「わかれば結構。間違っても、金の心配などするんじゃないぞ。」
ユウ「はい、ありがとうございます!」
メルク「みゅふふ、親切な人に出会えてよかったのですよ、ユウさん!」
?(スケアヘッド)「ユウ?」
?(スケアヘッド)「お前、ユウという名前なのか?」
ユウ「えっ、はい。俺はユウですけど……。」
?(スケアヘッド)「そうか、お前が……。ふむ、言われてみれば確かに面影がある。」
ユウ「あの……?」
?(スケアヘッド)「いや失敬、こちらの話だ。」
ユウ「は、はぁ……。」
酒場の店員「お待たせしましたー!」
エルピス「来た……!」
エルピス「いい香り。……いいものだなー。」
ユウ「ああ、料理を前にしたら空きっ腹が刺激される……!」
トト「きゅきゅ~!」
?(スケアヘッド)「焦らす理由はないな。好きに食べるといい。」
ユウ「はい、いただきます!」
エルピス「いただきます。」
?(スケアヘッド)「大いに食べ、大いに飲み……、そして、大いに語るといい。」
?(スケアヘッド)「食事には『会話』が肝要だからな。」

エルピス、ユウ「ごちそうさまでした。」
メルク「なのですよ!」
トト「きゅ~!」
?(スケアヘッド)「少しはマシな顔になったな。これなら少しは溜飲が下がるというものだ。」
ユウ「あはは、償えてよかったです。チャンスをくれてありがとうございました。」
?(スケアヘッド)「フッ、そこまで俺を善人にしたいか。俺の鬱憤を晴らすための行動だと言っただろう?」
?(スケアヘッド)「それに礼を言うべきは俺の方だ。お前達の話という予想外の儲けがあったからな。」
メルク「話といっても、私たちの自己紹介ばかりだったのですよ?」
エルピス「私に至っては、自分でわからないことが多過ぎて、自己紹介にもなってなかったよ?」
?(スケアヘッド)「ククク、いや充分充分。」
エルピス「……変わった人だなー。」
?(スケアヘッド)「言われ慣れてる。」
?(スケアヘッド)「ところで、お前達はまだ王都に滞在するのか?メルクとエルピスが再会を果たした今、ここに用事はないのだろう?」
エルピス「あ……。そっか。メルクに会うためにここまで来たけど、その後は、特に何も……。」
エルピス(あれ?それじゃあ、私はこれからどこに……?)
エルピス(メルクたちは、故郷に帰るはず。なら、私も元いた場所に……?あそこに……?)
エルピス(……っ)
メルク「世界鐘を観に行くのですよ~!」
ユウ「あ、そっか!すっかり忘れてた。」
?(スケアヘッド)「ほう……。」
エルピス「世界鐘って?」
メルク「なんでも、ものすごーい鐘らしいのですよ!鳴らすだけで一生の幸せが約束されるとか!」
ユウ「聞いた噂より効果が強力になってないか……?」
メルク「きっと時間が経って成熟したのです。エルピス、一緒に鳴らすのですよ~。」
エルピス「……!」
エルピス「う、うん、メルクがそうしたいなら。一緒に鳴らそう。」
?(スケアヘッド)「ククク、そうか世界鐘に。なるほどな。それはいい考えだ。」
?(スケアヘッド)「特にユウは、1度見ておいたほうがいいだろう。」
ユウ「えっ、どうして俺……?」
?(スケアヘッド)「おっと、そろそろ約束の時間だ。俺は行かなければならん。」
メルク「みゅ、行ってしまうのです?」
?(スケアヘッド)「ああ、重要な仕事があってな。遅れるわけにはいかん。」
?(スケアヘッド)「そうだ、世界鐘を観に行くならこれを持って行け。そら。」
エルピス「わ。これは、新聞?」
?(スケアヘッド)「世界鐘のことが詳しく書かれている。行く前に予習ぐらいはしておけ。」
エルピス「なるほど……。ありがとう。」
ユウ「すみません。何から何まで。」
?(スケアヘッド)「ククク、感謝も謝罪も必要ない。何から何まで俺の利益に繋がることだ。」
?(スケアヘッド)「ではな。明日の食事代ぐらいは確保しておけよ。」
ユウ「は、はい!ありがとうございました!」
ユウ「……不思議な人だったな。」
メルク「あんなにたくさん話したのに結局、あの人のことはわからずじまいだったのです。底が見えない人だったのですよ……。」
ユウ「ああ、本当にな。」
ユウ「……どうして、俺に世界鐘を見ろって言ったんだろう。」
メルク「みゅ!そういえば名前も聞けていないのですよ!?」
ユウ「あっ、そういえば!ご馳走になったのに何やってるんだ、俺たち!」
エルピス「あっ!」
ユウ「まだ聞けてないことがあったのか!?」
エルピス「新聞を貰ったけど、私は文字が読めない……!」
ユウ「宿に戻ったら読んであげるから!」
エルピス「ありがとう……!」

?(スケアヘッド)(ユウ、か)
?(スケアヘッド)(お前の話よりも素直そうな子供じゃないか。ククク、久しく会わないから理想がはいったか?)
?(スケアヘッド)(だが、よく似ている。姿や性格のことではなく、もっと根幹の部分が……)
「お迎えにあがりました、スケアヘッド様。」
スケアヘッド「……ああ、ご苦労。世間話から入った方がいいかな?」
「いいえ、私はただの案内役。あなたをただ、連れてくるように命じられております。」
「城までご同行願います。姫様が、貴方の報告を待っております。」
「ご契約なされた通り、見たこと、調べたこと、気づいたこと。何も隠さず、誤魔化さず、すべてお話するように。」
スケアヘッド「心配するな。交わした契約は必ず守るのが俺のポリシー。俺はあの方の忠実なしもべだとも。」
スケアヘッド「金が支払われ続ける限り……だがな。」

第二部一章

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